女性泌尿器科

女性泌尿器科学

  1. 腹圧性尿失禁
  2. 骨盤臓器脱(性器脱):膀胱瘤(膀胱脱)、直腸瘤、子宮脱(膣断端脱)

女性泌尿器外来

  • 診療場所:泌尿器科外来(TEL. 077-548-2567)
  • 診察日・時間:毎週金曜日午後(13:30~17:00)
  • 診療担当者:水流助教
  • 完全予約制。原則、他の医療機関からの紹介や当院一般外来からの予約が必要ですが、当面は電話での予約も受け付けています。

はじめに

女性の社会進出や生活の多様化に伴って、直接生命に影響することは少なくても、生活の質(Quality of Life: QOL)を大きく損なう疾患が注目されるようになって来ました。泌尿器科に関連する女性特有のQOL疾患(女性泌尿器科学)としては、骨盤底機能障害が最も頻度が高く、かつ重要な疾患です。これら骨盤底機能障害の内でも、腹圧性尿失禁と骨盤臓器脱(性器脱)の罹患率は高く、女性が一生のうちに腹圧性尿失禁あるいは骨盤臓器脱に対して手術を受ける確率は,11.1%であると報告されています。米国では,Urogynecology (女性泌尿器科学)が20数年前から準専門分野として確立してきた歴史があります。しかし,我が国では女性泌尿器科学の分野は泌尿器科と婦人科の狭間を漂っている状態が長く続きました。近年,漸く研究会が創立され,多くの女性において社会生活の障害となり、QOLの重大な阻害因子であることが知られるようになってきました。

当科は、本邦における女性泌尿器科学、特に新しい手術手技の導入に積極的に関わり、その普及に貢献してきました。ここでは、腹圧性尿失禁と骨盤臓器脱に対して当科で行っている手術療法を中心にまとめてみました。

1.腹圧性尿失禁の手術(スリング手術)

本邦では、1980年代にStamey法などの経膣的針式膀胱頚部挙上術が一時隆盛を極め、本邦における腹圧性尿失禁治療への取り組みが本格化するきっかけを作りました。しかし、1990年代後半に発表された米国泌尿器科学会(AUA) ガイドラインレポートなどにより、針式膀胱頚部挙上術は長期成績が不良であり、開腹式膀胱頚部挙上術と尿道スリング手術の成績が優れていることが判明しました。したがって、今日では手術の低侵襲性や簡便性などから、TVTâなどの経膣式尿道スリング手術が主流となっています(図1)。尿道周囲コラーゲン注入術は、侵襲性が低く、簡便ですが、成績はあまりよくありません。しかし、何度でも繰り返し行うことが出来るという利点があります。特殊な症例(先天性疾患、外傷など)では、自己筋膜を用いた開腹式膀胱頚部スリング手術や人工尿道括約筋(AMS800)設置術などが必要になることもあります。

図1

図1.腹圧性尿失禁に対する各種手術法の原理

経膣式尿道スリング手術

スリング手術は、テープ状に切り出した自分の筋膜(腹直筋や大腿長筋)や人工線維(ポリプロピレン)で出来たテープで尿道を支える術式です。今日では、侵襲性や簡便性の観点から、ポリプロピレンテープを用いた経膣式尿道スリング手術(Mid-urethral sling) が主流となっています。

  1. TVT (Tension-free Vaginal Tape) 手術:Integral Theory(Ulmsten, Petros)に基づいて開発されたTVT 手術が本邦ではスタンダードな手術法となっており、90%程度の良好な治癒率が示されています。前膣壁の小切開創から穿刺針を挿入して、恥骨後面の骨盤腔を通して下腹部にテープを引き出します。局所麻酔で、外来手術としても実施可能ですが、当科では入院(約3~4日)の上、静脈麻酔と局所麻酔を併用して実施しています。手術時間は30分~1時間以内です。
  2. TOT (Trans-Obturator Tape) 手術:TVTなどの従来の経膣式スリング手術では、膀胱穿孔(2~7%)、血腫形成(0.5~2%)、術後排尿障害(de novodetrusor instability: 10数%)などの合併症が少ないながらも報告されています。これらの合併症を克服するために、穿刺針が盲目的に骨盤腔内を通過する危険性を最小限にして安全性を向上させる術式が考案されました。TOT手術は、螺旋状に湾曲したイントロデューサー(穿刺針)を用いてポリプロピレンテープを閉鎖腔に通す術式で、欧米で急速に普及しつつある新しい術式です(図2)。本邦では、当科をはじめとした先進医療機関から導入され、漸く全国に普及し始めており良好な成績が報告されています(当科における尿失禁消失率98%)。手術時間は、TVT手術よりも若干短くなっており、合併症はほとんど報告されていません。

Tension-free Vaginal Tape (TVT) Trans-Obturator Tape (TOT)

図2.経膣式尿道スリング法(TVT法とTOT法)

(当科での実績)

  1. 純粋な腹圧性尿失禁
    経膣式尿道スリング手術(TVT、TOT)、後腹膜鏡下膀胱頚部挙上術(Burch法)
    最近では、経膣式尿道スリング手術のうちTOT手術を治療の中心に据えており,尿失禁の術後消失率(6ヵ月後)は98%です。
  2. 先天性脊髄疾患(二分脊椎など)
    開腹式膀胱頚部スリング手術(自己筋膜を使用)
  3. 患者希望、高リスク(心・肺機能障害、高齢)症例、男性尿道括約筋障害
    尿道周囲コラーゲン注入術
  4. 男性尿道括約筋障害(前立腺手術後など)
    人工尿道括約筋(AMS800) 埋設術、男性尿道スリング手術

2.骨盤臓器脱(性器脱)の手術

膀胱や子宮,直腸といった臓器がだんだんと下がってしまい,やがて膣から外に出てしまう病気を総称して骨盤臓器脱(性器脱)といいます。骨盤内臓器(膀胱、直腸、小腸)が膣壁を被って脱出する膣脱(図3)と子宮脱に分けられます。脱出する臓器としては,膀胱(35%)の頻度が最も多く,直腸(18%),子宮(16%)の順に多く見られます。          

骨盤臓器脱の種類
前膣壁 膀胱瘤(膀胱脱)、尿道瘤
後膣壁 直腸瘤
膣頂部(子宮が存在する場合) 子宮脱(小腸瘤)
膣頂部(子宮摘出後の場合) 膣断端脱(小腸瘤)

図3

図3.膣脱の種類

治療法

治療方法としては、①膣内にリング状のペッサリーという器具を入れて脱出を押さえ込む方法と②手術療法があります。膣内ペッサリーでは、異物による炎症を起こしますので定期的(3ヶ月毎)な交換が必要です。根本的な治療法は手術ですが、従来の手術法では重症のものでは再発率が高いのが問題でした。しかし,近年開発されたメッシュを用いた手術は良好な治療成績が報告されています。

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC手術)

TVMメッシュ手術が海外において合併症が多くみられたことから、この手術法が登場しました。2014年4月から腹腔鏡下膀胱脱手術として、2016年4月からは腹腔鏡下仙骨腟固定術として保険適応になった新しい手術です。当科では2015年3月より本手術を開始しています。 膣の前後をメッシュで覆い、骨盤上部の仙骨に引っ張り上げて固定する方法です。手術時間は約3-4時間ぐらいです。腹腔鏡手術のため痛みが少なく、入院期間も約1週間と短期間です。この手術でもTVM手術と同様にほとんど再発なく治療出来ています。

TVMメッシュ手術(全般的な骨盤底形成術)

当院で行っているTVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術(図4)は、開腹することはなく、膣から人工線維(ポリプロピレン)でできたメッシュ(シート)を使って膣周囲の筋膜を全般的に補強する最新の手術法で再発はほとんど認められません(当科における再発率は4%)。TVM手術では,子宮脱に対しても子宮を温存することができます。

図4

図4.ポリプロピレンメッシュ(GyneMesh®)を用いた骨盤底形成術:TVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術

従来の手術療法(部位別骨盤底形成手術)

  1. 膀胱瘤
    膀胱と膣の間にあり膀胱を支えている膀胱膣中隔(恥骨頚部筋膜)を縫縮補強する前膣壁形成術を行います。しかし、重度の膀胱瘤では再発率が高いことが知られています。当科ではポリプロピレンメッシュ(GyneMesh®)によって膀胱膣中隔(恥骨頚部筋膜)を補強するTVM手術(図4)を導入して良好な成績を得ています。
  2. 直腸瘤
    直腸と膣の間にある直腸膣中隔を縫縮強化する後膣壁形成術を行います。重度の直腸瘤では、ポリプロピレンメッシュを用いたTVM手術を行うことにより補強を強化することができます。
  3. 子宮脱、子宮下垂、膣断端脱
    膀胱瘤などに合併した子宮脱や膣断端脱に対しては、経膣的子宮摘出術と膣上端の仙棘靭帯固定術を合わせた手術方法や子宮頚部切断によって子宮の温存が可能な修復術を行います。しかし最近では、膀胱瘤や直腸瘤と同時にポリプロピレンメッシュ(GyneMesh®)を用いて膣全体を正常な位置に修復する最新の術式であるTVM手術を用いています。子宮が存在する場合には,子宮を温存することを原則としています(図4)。
  4. その他
    高齢で、心臓・循環器、呼吸器などに合併症を持っている高リスク症例では、侵襲の少ない膣閉鎖術(Le Fort法)を行う場合があります。