






赤ちゃんから成人まで、身体の成長に伴い、膀胱も成長します。最もダイナミックな変化が訪れるのはトイレットトレーニングの時で、これを機に、脳が膀胱のコントロールをするようになります。トイレットトレーニング前までは、昼も夜も無意識のうちに排尿していますが(反射排尿と言われています)、トイレットトレーニング後には、脳が膀胱から来る情報を感知して、尿を我慢したり、尿を出したり調整し、昼間はトイレで排尿するようになります。しかし、小学校低学年頃までは、膀胱にある程度尿がたまると、無意識のうちに収縮する(無抑制収縮:未熟膀胱や神経因性膀胱で見られます)ため、突然トイレに行きたくなって「おしっこ!おしっこ!」とトイレに駆け込み、時には間に合わないこともあります。こういったお子さんには、まず、昼間尿失禁を治してから夜尿症の治療に取り掛かるようにしています。腹部と仙骨部の診察、検尿や超音波検査、尿流測定検査、排尿日記などの非侵襲的な検査で、大きな異常がないかどうかを探ります。尿道狭窄や膀胱尿管逆流症(VUR)が潜んでいる可能性がありますが、侵襲のある検査、排尿時膀胱尿道造影(VCUG)をしないとわからないので、最初からは行いません。
まずすべき方法は非常に簡単です。時間排尿と言って、もれる前に(膀胱が異常収縮する前に)排尿するのです。30分しかもたないこともあれば、2時間もつこともあります。
今日は、車で遠くにお出かけするから、おしっこに行きなさいと言っても、「おしっこない!」と言うお子さんに限って、車で10分も走ると「おしっこ!漏れる!」といった経験はよくあると思います。大人と違って(大人は尿意が出てから30分から1時間ぐらい我慢できますよね)尿意が出てからは、膀胱が強い力で収縮するので、尿道が持ちこたえられないのです。だから間に合わなくて、漏れてしまうわけです。尿意の波が襲って来る前に、排尿するように誘導することが大事なのです。そうすると膀胱が安定して、たくさん貯められるようになり、不安定さも取れ、昼間のお漏らしは治ります。きちんとできれば、1-3ヶ月ぐらいで効果が出るようです。それでもだめなら、抗コリン剤のポラキス®を処方しています。
膀胱が小さいからと言って、膀胱訓練をすると余計お漏らしがひどくなります。膀胱訓練も有効な訓練方法なのですが、昼間のお漏らしが治るまでは膀胱訓練を控えようにした方が良いです。
夜尿症の自然治癒
頻度:5歳(15%)、7歳(10.8%)、10歳(6.7%)、12歳(4.8%)、15歳(3%)、20歳(1.3%)
夜尿症の殆どのお子さんは、病気ではありません。膀胱と脳の神経系が発達途上なのです。当科では極力、生活指導をきちんと行い、足らないところを、薬物療法や行動療法で補うようにしております。
毎年、何も治療しなくても15%づつ夜尿が治ると言われており、殆どのお子さんが、大人になるまでに治ります。しかし、自然に治るよりも早く治すには、本人およびご家族の努力が必要になります。
A君は小学校5年生の10歳の男の子です。3人兄弟の長男で、下には8歳の妹、5歳の弟がいます。妹と弟は、ずいぶん前に夜尿はしなくなったのですが、A君は毎日おねしょをしてしまいます。お母さんには、お兄ちゃんなんだからしっかりしなさいといつも怒られています。昔からおしっこが近くて、小学校2年生までは、トイレまで我慢できなくてお漏らしをしたこともあります。授業中におしっこがしたくなると困るので、学校ではあまり水分を飲まないようにしています。帰宅すると、おやつを食べますが、塩辛いスナック菓子が大好きで、スポーツドリンクと一緒に食べてしまいます。夕方から、のどが渇くのか、しきりに水分が欲しくなり、夕食時、入浴後も癖のように飲んでしまいます。お味噌汁も大好きで、ついついお代わりしてしまいます。寝る前はきちんと排尿してから寝るのですが、朝はどっぷり漏れてしまっています。冬場なんかだと、パジャマまで濡れて冷たくなっても気づきません。また休みの日だと、遅くまで寝ています。
このお子さんの問題点は
指導ポイントは
家族の皆さんが、一丸となって協力しないとうまくいきません。中途半端にするとだらだらと、数年かかってしまうこともあります。
膀胱に尿がたまってくると、眠りが浅くなり、もれる前に目を覚まし、トイレで排尿できれば夜尿症は治ります。これは神経系の発達が不可欠で、膀胱と脳の連携がうまくとれてくることが必要です。⇒残念ながら、この部分を治す薬はないので、②③④で補うようにして夜尿を治します。
年齢相応の推定膀胱容量=(年齢+2)×25 ml(たとえば7歳=225ml、9歳=275ml)
排尿日記や膀胱訓練で、膀胱の大きさ(機能的膀胱容量)がわかります。
抗利尿ホルモンは夜にたくさん分泌されるので、夜間に起こして排尿させるのは良くありません。
朝起きて1回目の尿の比重や浸透圧を調べれば、濃縮されているかどうか判ります。
生活習慣を見直して、夜尿が治りやすい体質に変えると、15%に夜尿が改善します。
本人のやる気がなければ、やる気が出てくるまで治療を開始しないことも必要です。また治療を始めても、途中で中だるみしてしまうことがあります。そういった場合も、一旦治療を中断してみる方が良いかもしれません。
夜尿症治療は、学童期以降の、お子さんが対象になりますが、病院に来るには、学校を休むか、早退をしなくてはなりません。そのため、お母さんが、お子さんの代わりに受診されるケースもあるのですが、受診の間隔が開いてしまうとだれてしまい、お薬に頼ってしまうようです。本人が受診しない場合、いったん夜尿症が軽快したのに、悪化する場合が良くあります。基本的には、本人さんも一緒に受診していただくようにしており、火曜日の午後をおねしょ外来としています。
夜尿症を治すには、根気と努力が必要で、夜尿症が治りやすい体質に変える必要があります。きちんと守れた場合、約15%の患者さんに夜尿の消失・軽快が見られます。食事の制限が入るので、家族の方も治療に協力していただく必要があります。中途半端は一番良くありません。本人のやる気がなければ、やる気が出てくるまで治療を開始しないことも必要です。治療開始年齢は、お子さんのやる気があれば、小さくても可能ですが、通常8歳以降でないと、なかなか注意事項を守れません。「~君、~ちゃん。もう○○才なんだから治したいよね!!」と強制、もしくは誘導尋問してはいけません。本当に治したいお子さんは、外来で、医師の言葉を聞き漏らすまいと、必死で聞いています。まだやる気のないお子さんは、椅子の上で、くるくる回ったり、他に気がいっているようです。
お子さんだけではなく、ご両親にも指導をしています。
1-2日の全ての排尿記録をつけます。(例:7歳、男児、夜尿症)
日付 | 時刻 | 排尿量(ml) | おねしょの量(g) |
---|---|---|---|
2 / 8(土) | 10:00 | 120 | 210 |
12:00 | 80 | ||
16:00 | 90 | ||
19:50 | 120 | ||
20:40 | 60 | ||
2 / 9(日) | 7:00 | 80 | 320 |
9:40 | 90 | ||
11:05 | 130 | ||
13:10 | 120 | ||
15:30 | 90 | ||
17:20 | 120 | ||
18:15 | 100 | ||
20:00 | 60 |
目標を設定し、クリアできたら褒めてあげて下さい。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 80ml |
2 80ml |
3 90ml |
4 100ml |
5 90ml |
6 90ml |
|
7 100ml |
8 80ml |
9 100ml |
10 110ml |
11 90ml |
12 120ml |
13 90ml |
14 140ml |
15 100ml |
16 100ml |
17 90ml |
18 110ml |
19 120ml |
20 130ml |
21 120ml |
22 100ml |
23 100ml |
24 130ml |
25 90ml |
26 100ml |
27 100ml |
28 110ml |
29 120ml |
30 160ml |
31 130ml |
日常生活の注意事項が守れなければ開始しません。薬物療法を開始するかどうかは、本人の意思を尊重しています。排尿日記と早朝尿浸透圧の結果で、まず一番合いそうな薬を14日分処方します。
効果はある程度期待できますが、休薬すると大体40%ぐらいが再発します。やはり、普段の生活習慣が大事なのです。
夜尿アラーム:ミニリンメルト®とともに夜尿治療の2本柱の一つです。橋にある排尿中枢のトレーニングに役立つと考えられています。 夜間の膀胱容量が大きくなったり、漏れる前に目が覚めるようになります。
本人と家族にやる気がないと、継続できません。年長児で、夜尿回数が2週間で7日 以下の方にお勧めしています。
日本で購入可能な夜尿アラーム
1)WetStop 3(7035円):夜尿を音とバイブレーションで知らせてくれます。アマゾンで買えます。
2)ちっちコール4(7000円):夜尿を音で知らせてくれます。日本製
3)ピスコール(パッド90枚セット)(20790円):ワイヤレスで、夜尿を音とバイブレーションで知らせてくれます。アマゾンで買えます。
http://www.pisscall.jp/