尿路関係

(1)原発性膀胱尿管逆流症(VUR)

尿が膀胱から尿管に逆流する病態で、ふつう急性腎盂腎炎を契機に発見されます。頻度は約1%ですが、男児は1歳未満に多く、女児は1歳以降に多い傾向があります。
腎盂腎炎(おしっこの熱)は、有熱性尿路感染症とも言われ、ひどい場合は40℃を超える発熱が出るため、1歳未満の乳幼児は入院の上、抗生物質の点滴を受ける必要があります。腎盂腎炎は尿検査(尿中に白血球がたくさん出ます)で診断します。学童期以降の腎盂腎炎の場合、背部痛や先行する膀胱炎症状を伴います。しかし、乳幼児期は非特異的症状(発熱、嘔吐、下痢など)を呈するため、通常の風邪と診断され、内服薬を処方されることもあります。腎盂腎炎を何度も繰り返し起こすと、腎臓の細胞が炎症のため、ダメージを受けます。腎臓のダメージは腎瘢痕といわれており、幼少期の方がダメージを受けやすいと考えられています。腎盂腎炎が治ったら、抗生物質をすぐにやめてしまわないで、抗生物質の予防投薬(通常の量の1/3から1/10の少量を1日1回投与)を開始するべきです。抗生物質は、通常量で飲み続けると、副作用(下痢、腎機能障害、肝機能障害など)が出ますが、少量であれば、通常あまり副作用は軽微なようです。腎盂腎炎を繰り返すほうが、体には良くないように思います。

VURの診断は、腎盂腎炎などの炎症がおさまって1ヶ月以上あけて検査をします。腎盂腎炎が直ってすぐは、膀胱の粘膜が浮腫状(腫れていて)になっていて正確な診断ができないからです。検査方法は排尿時膀胱尿道造影(VCUG)という検査で診断します。尿道から細いカテーテル(直径1-2mm)を挿入し、おしっこの代わりに薄めた造影剤を膀胱内に注入します。注入する量は患者さんの年齢によって増減させています。膀胱内に造影剤が入ったら、排尿を誘発させ、排尿しているところをレントゲンに撮影します。通常、排尿の時に、造影剤は体外に出てしまうので、体の中には残りません。この検査は、痛みと被爆を伴う非常に侵襲の大きな検査ですが、現代の医学では、VURの診断には不可欠とされています。逆流の程度によってグレード1から5まで分類されています(国際分類)。グレード1と2は軽度、グレード3は中等度、グレード4と5は高度となります。

VURによる不都合は慢性腎盂腎炎と腎機能障害です。直接命にかかわる病気ではありませんが、大事な腎臓という臓器を傷つけてしまうため注意が必要です。両側の腎臓に多発性腎瘢痕が存在する場合、思春期以降に腎機能障害が悪化する場合があります。

腎瘢痕を診断するには、核医学検査の一種である、DMSA腎シンチグラムを行います。腎静態シンチグラムと言われており、腎臓の皮質機能(尿細管機能)を見ることができます。放射性同位元素でラベルしたお薬を、静脈内注射し、2時間後に腎臓に集まったお薬の像を撮影します。腎瘢痕がある部分は薬が集まらないので、白く抜けます。

VURの病態は、尿管と膀胱の接合部(尿管膀胱移行部)の先天的な脆弱性のため、起こると考えられています。

VURの治療の前に、いくつかのチェック事項があります。 続発性(2次性)の病態を除外しなければなりません。尿道狭窄や神経因性膀胱などが潜んでいないかチェックします(通常、VCUGや仙骨部の診察で大体はっきりします)。こういった病気がある場合は、もとの病気をまず治すようにします。トイレットトレーニングが済んでいるお子さんの場合は、排尿習慣を間違って覚えていないかどうか(おしっこを我慢するなど)、便秘がないかも確認します。これらは尿路感染症を引き起こすため、すみやかに改善させる必要があります。

VURの治療は、保存的治療と外科的治療の2つがありますが、それぞれメリットとデメリットがあります。保存的治療とは、身体が成長し大きくなるにつれ、尿管膀胱移行部も同じく成長し、VURが消失するのを待つ治療法です。抗生物質の予防投薬が原則必要となりますが、抗生物質でVURが治るのではありません。1-2年に1回程度VURが治ったかどうかVCUGで確認する必要があります。ほとんどの方が、抗生物質の予防投薬で尿路感染症をコントロールすることができるのですが、約20%は再び腎盂腎炎にかかってしまいます。こういった方は、保存的治療の限界(腎盂腎炎によってどんどん腎臓に傷かついてしまう)と考えられるので、外科的治療の対象になります。外科的治療は、尿管膀胱移行部をVURが起こらないように手術で治します。

子供

外科的治療の適応

絶対適応は抗生物質を飲んでいても腎盂腎炎を起こす例です。相対的な適応として、中等度以上の腎機能障害、抗生物質が飲めない、両親の希望、自然消失が期待できない年齢(思春期以降)があげられます。

外科的治療には、内視鏡治療、VUR根治術、腹腔鏡下VUR根治術がありますが、当科では以下の理由でVUR根治術を主に行っています。

内視鏡治療

専門の膀胱鏡を用いて、液体の注入物質(ヒアルロン酸製剤であるDeflux)を尿管膀胱移行部に注入し、尿管膀胱移行部の壁内尿管を持ち上げることにより、VURを治す方法で、2011年より保険で認められました。手術直後にはVURは消失しているのですが、時間がたつと、吸収されたり、移動したりしてVURが再発する特徴があります。成功率は60-70% と報告されています。また手術後に、再発チェックのためにVCUGを繰り返す必要があります。手術時間は30分未満で、全身麻酔が必要です。身体に傷はつかないため、痛みはなく、入院期間は1泊2日です。再発例にたいする再手術も可能です。欧米では、抗生物質予防投薬よりも、この内視鏡治療が主流となっているようです。しかし、腎機能障害が進行し、腎盂腎炎を繰り返しているような例には、お勧めできません。

VUR根治術(膀胱内アプローチ)

尿道膀胱の内視鏡検査で尿道の病変をチェックした後で、下腹部を約4-5cm横切開し、尿管を膀胱に逆流が起こらないように再度植えなおす方法です。下腹部に傷が残りますが、皮膚の皺に沿った切開で、埋没縫合を行い、目立ちにくい工夫をしています。当科では膀胱内アプローチCohen(コーエン)法を標準術式としています。手術時間は、2-3時間です。術後尿道カテーテルを留置しますが、血尿が消失すれば抜去します。入院期間は約1週間です。術後6ヶ月目にVURが消失したかどうかVCUGを行いますが、2000-2005年に行った約50例ではVUR消失率は100%でした。

腹腔鏡下VUR防止術

国内外で、腹腔鏡を用いたVUR防止術(気膀胱下コーエン法、腹腔鏡下リッチ グレゴール法)の試みがなされています。河内教授は、気膀胱下コーエン法のパイオニアで、今まで100例以上を経験され、開腹手術と同等の成績をあげておられます。当科でも2013年8月より、1歳以上(体重10kg以上)の患者さんで根治手術を希望された場合、第1選択となっています。術創は5mmの傷(バンドエイドに隠れます)が3つと美容的には非常に優れています。

VURが治った(手術もしくは自然消失)後の管理方法

VURが消失した後でも、腎機能が悪化する場合があります。腎瘢痕がある患者さんは思春期を過ぎるまで、経過観察をする必要があります。腎機能が悪化するのと並行して高血圧も出現してきます。幼少期までに治った患者さんは、トイレットトレーニングの時に、尿を我慢する習慣をつけないように注意指導しています。滋賀医科大学泌尿器科で開設以来30年でVURに関連した末期腎不全患者さんは、2人でした。いずれの方も蛋白尿で発見されたVUR患者さんでした。VUR診断時には、腎機能障害が進行していたようです。蛋白尿で見つかるVUR患者さんは腎盂腎炎を起こさずに腎機能障害が進行することがあり、早期に発見することが困難です。思春期(第2次性徴)の時に、筋肉量や体重が一気に増加するため、腎臓にダメージのある患者さんは、腎機能が悪化する場合があります。当科では6-12ヶ月毎に外来で、尿検査と血圧測定を行っています。

(2)水腎症

妊娠中の超音波検査が普及されるに従い、胎児期に水腎症が分かる時代になってきました。主には産科の先生に見つけていただく形になりますが、お産を扱う全 ての先生方にこの概念が浸透している訳ではありません。胎児水腎症は出生後も持続するとは限りませんが、専門的知識を持ってきちんと管理する必要がありま す。

鏡視下腎盂形成術

河内教授は、単孔式腎盂形成術のパイオニアで、今まで100例以上を経験され、開腹手術と同等の成績をあげておられます。当科でも2013年8月より、1歳以上(体重10kg以上)の患者さんで根治手術を希望された場合、第1選択となっています。術創は臍に2cmの傷(臍に隠れてわかりません)と2mmの傷(ほとんどわかりません)が1つと美容的には非常に優れています。近々、ロボット支援腎盂形成術の導入を計画しています。

胎児(無症候性)水腎症の考え方

生まれるまで: 羊水量(羊水過少の有無)を調べる。

妊娠後期の羊水は、胎児の腎機能を意味します。この時期に羊水が少なくなるとお腹の赤ちゃんの腎機能が低下してきていることが予想されます。産科の先生と相談し、早期娩出が必要な場合もあります。

生まれてから:出生後しばらくしてからの超音波検査を行う。

出生直後は脱水になっているため、水腎症は軽めに見えます。ミルクや補液で脱水が改善されてから超音波検査を行います。超音波の所見で0-4度まで5段階に水腎症の分類があります。数字が大きい方が、重度になります。腎盂腎杯が拡張し、腎実質が薄くなっているグレード4の症例は、将来外科的治療が必要になるかもしれません。一方グレード3以下の症例は自然軽快の可能性があります。

水腎症の疫学(どんな原因で水腎症になるのか)

最も頻度が多いのは腎盂尿管移行部狭窄症で約60%です。2番目に多いのが、尿管膀胱移行部狭窄症(巨大尿管症)で約20%です。3番目に多いのは膀胱尿管逆流症(VUR)です。この頻度が10-15%あります。乳幼児期に腎盂腎炎にかかると、敗血症(菌が全身をめぐり40度以上の熱が出る)を起こしたりすることもあるので、腎盂腎炎を起こさないように、診断がつくまでは(VURがあるかないか)、抗生物質の予防投薬をする方が良いと考えます。

排尿時膀胱尿道造影(VCUG)でVURを除外する

血清クレアチニンをチェックする:血液検査のなかで総腎機能を反映している項目です。生後すぐはお母さんの血液データーと同じ値(大体0.4-0.8mg/dl)をとりますが、徐々に低下し、2-3ヶ月未満の乳児では0.1-0.3mg/dlとなります。

核医学検査で左右の腎機能の比較(分腎機能)を行う

水腎症がグレード3(中等度)以上で、VURがなく、総腎機能が安定していることが確認できれば、核医学検査を行います。

DMSA腎シンチ(腎静態シンチ)
腎瘢痕の有無が分かる
利尿レノグラム(腎動態シンチ)
通過障害があるかどうか分かる

ここまでの検査で、緊急性を要しない場合は経過観察で、外来にてエコー検査で定期的にフォローします。必要があれば核医学検査を繰り返します。グレード3以下の症例は自然軽快の可能性があります。

静脈性腎盂造影(IVP)、腹部CT
よっぽどのことがなければ撮影しません。
子供

水腎症の手術適応

緊急性がある場合

有症状(痛み、血尿、腹部腫瘤による圧迫症状;摂食障害による体重増加不良など、腎機能悪化、分腎機能悪化)

無症候性の場合

複数回の核医学検査で、分腎機能が悪化または持続する通過障害を認めた場合年長児以降に見つかる、間欠性水腎症(痛い時だけ、水腎症がある)は発作時に超音波検査を行えば診断がつきます。発作時は痛みや嘔吐が高度で、痛みは尿路結石の疝痛発作と同程度と言われています。腎機能は比較的保たれていて、異常血管や尿管ポリープが原因であることが多いです。

水腎症の手術は腎盂形成術、内視鏡下腎盂形成術、腹腔鏡下腎盂形成術がありますが、当科では原則的として乳幼児から学童期までは腎盂形成術、思春期以降は鏡視下腎盂形成術を行っています。

腎盂形成術
術前に内視鏡検査で、狭窄部位を推定しておきます。推定された腎盂尿管移行部の近くの上腹部に約4-5cmの横切開を加え、腎盂尿管移行部を露出させます。狭窄部を切除し、健常な腎盂と尿管を吻合します。異常血管は動脈である場合は温存し、吻合部を避けた腎盂壁に縫込みます(ヘルストローム法)。乳幼児の場合、しばらく吻合部の通過がみられない場合があるので、術後にDJカテーテルを留置する場合があります。手術時間は2-4時間です。入院期間は約1週間です。
内視鏡下腎盂形成術
背中に小さい穴を開け、内視鏡を挿入し、腎盂尿管移行部を内視鏡に組み込まれたメスやレーザーで切開する術式です。異常血管を切ってしまった場合、出血がコントロールできないことから第一選択とはしていません。
鏡視下腎盂形成術
思春期以降の患者さんで、上腹部4-5cmの小切開から腎盂尿管移行部にアプローチするのは困難で、十分な術野を展開するためには更なる切開を広げなければなりません。そのため、思春期以降の患者さんには、鏡視下(後腹膜鏡下、腹腔鏡下)をお勧めしています。