基礎研究

ガンマ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ(GGCT)を標的とした
がん治療薬の開発

影山 進

当科では膀胱がん細胞のタンパク質を網羅的に解析し、新しい治療標的を探索してきました。その結果、がん組織に強く発現するタンパク質のひとつとしてGGCTを発見しました。発見時点ではこのタンパク質の機能は未知でしたが、実験によりがん細胞の増殖を促進する働きがあることを明らかにしました[1]。また、このタンパク質の働きを阻害することでがん細胞の増殖抑制が起こることも明らかになり、新しいがん治療標的となり得ることを世界で初めて報告しました。その後、国内外の研究者により膀胱以外の多種のがん細胞でも同様の現象が報告され、GGCTによるがん増殖促進は多くのがん種で共通の現象と考えられるようになりました。さらにはこのタンパク質がグルタチオン(酸化ストレスから細胞を保護する作用をもつ物質)の産生に関わる重要酵素のひとつであることがオーストラリアの研究者により明らかにされました。
当科は多くの共同研究者とともにGGCTを抑制するがん治療について研究を進めてきました。GGCTの働きを阻害するとがん細胞が飢餓状態に陥り、AMPKやmTORCなどの栄養センサー分子を介してオートファジーや細胞老化を引き起こし、さらには増殖停止・細胞死に至るということを明らかにしました[2-5]。また、PHB2というタンパク質とGGCTが直接結合し、細胞増殖の調節に関わることも明らかにしました[6, 7]。しかしながら、まだ未解明な点も多く、引き続きGGCT阻害によるがん細胞内の変化を探索し続けています。

私共は京都薬科大学および株式会社ペプチド研究所とともにGGCTの活性を測定できる試薬やGGCTを阻害する化合物を開発し、上市してきました[8, 9]。GGCT阻害化合物をもちいて担癌マウスの治療実験では、副作用なく、がんの縮小を得ることができ、GGCTが有望ながん治療標的であることが動物実験でも確認できました。現在、低分子化合物のみならず、核酸技術など新たな技術も用いて、GGCT標的治療の確立に向けた研究を進めております[10]。

〈関連業績〉

  1. Kageyama S, Iwaki H, Inoue H, Isono T, Yuasa T, Nogawa M, Maekawa T, Ueda M, Kajita Y, Ogawa O, Toguchida J, Yoshiki T. A novel tumor-related protein, C7orf24, identified by proteome differential display of bladder urothelial carcinoma. Proteomics Clin Appl. 2007 1:192-9. DOI: 10.1002/prca.200600468.
  2. Matsumura K, Nakata S, Taniguchi K, Ii H, Ashihara E, Kageyama S, Kawauchi A, Yoshiki T. Depletion of γ-glutamylcyclotransferase inhibits breast cancer cell growth via cellular senescence induction mediated by CDK inhibitor upregulation. BMC Cancer. 2016 16:748. DOI: 10.1186/s12885-016-2779-y.
  3. Taniguchi K, Matsumura K, Ii H, Kageyama S, Ashihara E, Chano T, Kawauchi A, Yoshiki T, Nakata S. Depletion of gamma-glutamylcyclotransferase in cancer cells induces autophagy followed by cellular senescence. Am J Cancer Res. 2018 8:650-661.
  4. Kageyama S, Ii H, Taniguchi K, Kubota S, Yoshida T, Isono T, Chano T, Yoshiya T, Ito K, Yoshiki T, Kawauchi A, Nakata S. Mechanisms of Tumor Growth Inhibition by Depletion of γ-Glutamylcyclotransferase (GGCT): A Novel Molecular Target for Anticancer Therapy. Int J Mol Sci. 2018 19:2054. DOI: 10.3390/ijms19072054.
  5. Taniguchi K, Ii H, Kageyama S, Takagi H, Chano T, Kawauchi A, Nakata S. Depletion of gamma-glutamylcyclotransferase inhibits cancer cell growth by activating the AMPK-FOXO3a-p21 axis. Biochem Biophys Res Commun. 2019 517:238-243. DOI: 10.1016/j.bbrc.2019.07.049.
  6. Taniguchi K, Matsumura K, Kageyama S, Ii H, Ashihara E, Chano T, Kawauchi A, Yoshiki T, Nakata S. Prohibitin-2 is a novel regulator of p21WAF1/CIP1 induced by depletion of γ-glutamylcyclotransferase. Biochem Biophys Res Commun. 2018 496:218-224. DOI: 10.1016/j.bbrc.2018.01.029.
  7. Takagi H, Moyama C, Taniguchi K, Ando K, Matsuda R, Ando S, Ii H, Kageyama S, Kawauchi A, Chouha N, Désaubry L, Nakata S. Fluorizoline blocks the interaction between prohibitin-2 and γ-glutamylcyclotransferase, and induces p21Waf1/Cip1 expression in MCF7 breast cancer cells. Mol Pharmacol. 2021 in press. DOI: 10.1124/molpharm.121.000334.
  8. Yoshiya T, Ii H, Tsuda S, Mochizuki M, Kageyama S, Yoshiki T. Design of fluorogenic probes and fluorescent-tagged inhibitors for γ-glutamyl cyclotransferase. J Pept Sci. 23:618-623. DOI: 10.1002/psc.2984.
  9. Ii H, Yoshiya T, Nakata S, Taniguchi K, Hidaka K, Tsuda S, Mochizuki M, Nishiuchi Y, Tsuda Y, Ito K, Kageyama S, Yoshiki T. A Novel Prodrug of a γ-Glutamylcyclotransferase Inhibitor Suppresses Cancer Cell Proliferation in vitro and Inhibits Tumor Growth in a Xenograft Mouse Model of Prostate Cancer. ChemMedChem. 2018 13:155-163. DOI: 10.1002/cmdc.201700660.
  10. Ii H, Kasahara Y, Yamaguma H, Kageyama S, Kawauchi A, Obika S, Nakata S. Administration of Gapmer-type Antisense Oligonucleotides Targeting γ-Glutamylcyclotransferase Suppresses the Growth of A549 Lung Cancer Xenografts. Anticancer Res. 2022 Mar; 42(3): 1221-1227. doi: 10.21873/anticancers.15589. PMID:35220212.

代謝型グルタミン酸受容体による射精調節

馬杉 美和子

〈研究紹介〉

近年、射精障害で不妊外来を受診する男性が増えています。ところが、アモキサピンなどの三環系抗うつ薬が逆行性射精を改善させる例を除いて、射精障害に有効な薬物療法はありません。
グルタミン酸は中枢神経系の主要な興奮性伝達物質です。G蛋白を介して細胞内2次メッセンジャー系を活性化する代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ7(mGluR7)に注目しました。mGluR7ノックアウトマウス(KO)は繁殖に異常があるため、その性行動を解析しました。mGluR7 KOは射精障害を示すのですが、異性に対する匂い嗅ぎ行動、マウント行動および挿入行動は正常であることがわかりました。匂い嗅ぎ行動とマウント行動が正常であることはmGluR7 KOの性的なモチベーションが正常であることを示します。
mGluR7は中枢神経系に広く発現しているため、脳に発現するmGluR7と、射精中枢が存在する脊髄に発現するmGluR7のどちらが射精を調節しているのかを確かめるためにmGluR7アンタゴニストを用いた解析を行いました。射精を誘発する薬剤であるp-chloroamphetamineによる射出量は、腰髄へのmGluR7アンタゴニストMMPIPの注入で有意に減少しました。この結果は腰髄に発現しているmGluR7が射精を調節していることを示唆します。mGluR7はシナプス前膜の伝達物質放出部位近傍に存在し、グルタミン酸放出の調節をしていますが、単なる自己受容体として働くだけでなく、シナプス可塑性にも大きくかかわることが示唆されています。早漏や膣内射精障害を含めた遅漏などの射精障害の薬物ターゲットとしてのmGluR7の可能性を探索しています。

〈関連業績〉

  1. Masugi-Tokita M, Flor PJ, Kawata M (2016) Metabotropic Glutamate Receptor Subtype 7 in the Bed Nucleus of the Stria Terminalis is Essential for Intermale Aggression. Neuropsychopharmacology 41 (3):726-735. doi:10.1038/npp.2015.198
  2. Masugi-Tokita M, Tomita K, Kobayashi K, Yoshida T, Kageyama S, Sakamoto H, Kawauchi A (2020) Metabotropic Glutamate Receptor Subtype 7 Is Essential for Ejaculation. Mol Neurobiol 57 (12):5208-5218. doi:10.1007/s12035-020-02090-2
  3. Masugi-Tokita M, Yoshida T, Kageyama S, Kawata M, Kawauchi A (2018) Metabotropic glutamate receptor subtype 7 has critical roles in regulation of the endocrine system and social behaviours. J Neuroendocrinol 30 (3):e12575. doi:10.1111/jne.12575

再生足場の生体吸収性材料を用いた機能的な泌尿器再生研究

堀井 常人

〈研究紹介〉

あらゆる疾患の診断利用、臓器・器官再建方法として再生医療は近年注目されております。再生医療の重要な三大要素として、細胞、成長因子、足場が言われておりますが、私たちの研究では、足場の材料と構造に着目して研究しています。これまでの研究で、足場材料の繊維径や繊維間隔を変化させることで、材料内部への細胞浸潤性や血管、脂肪組織の形成が変わることを確認しております。そのため、この細胞浸潤性の違いを考慮し、材料構造を成形加工することで、目的の臓器・器官形成への応用可能性が広がることが期待されます。
泌尿器科領域における再生医療の研究は、膀胱、尿管、尿道の再生を行っております。膀胱再生におきましては、合併症等の問題のある回腸導管を使用した膀胱拡大方法に替わる新たな再建方法として機能的な足場材料の使用を考えました。動物実験の結果、1年以上の長期に渡り良好な蠕動運動の確認と十分な膀胱容量、またコンプライアンスの増大と電気刺激による筋収縮が認められる再生膀胱組織の作製に成功しました。今後は、過活動膀胱モデルや脊髄損傷モデルを使用し、将来的な臨床応用を目指して研究を進めていこうと思っております。

〈関連業績〉

  1. Horii T, Tsujimoto H, Hagiwara A, Isogai N, Sueyoshi Y, Oe Y, Kageyama S, Yoshida T, Kobayashi K, Minato H, Ueda J, Ichikawa H, Kawauchi A. Effects of Fiber Diameter and Spacing Size of an Artificial Scaffold on the In Vivo Cellular Response and Tissue Remodeling. ACS Applied Bio Materials 4(9) 6924-6936 2021. DOI: 10.1021/acsabm.1c00572
  2. T. Horii, K. Jonin, H. Tsujimoto, M. Nagasawa, K. Kobayashi, A. Hagiwara, A. Kawauchi. Regeneration of functional bladder using cell seeded amniotic membrane and P(LA/CL) scaffold covered with omentum. ESB2019 PS2-13-454 2019

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